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MY詩集 2011年1月号_小説1_1

vol.378_2011年1月号_小説1_1

vol.378_2011年1月号_小説1_1
テーマ作品:聖夜

Editor: Yuki Kumagai
Copyright (C) MY-SHISHU




クリスマス・キャンドル

星のカナリア

 聖なる夜。寒空の下。
 華やかなケーキ屋さんの前を通るとき、私には少し勇気がいる。小さな子どもを連れた若い夫婦やカップルが、幸せそうに丸いケーキを抱えて出てくるからだ。
 私の頬に、木の葉のように、ひとひらの雪が降ってきて、火照った体が寒さでツンとなる。幸せそうな人たちの合間を縫うように歩きながら、この季節の私は、人波の中にKを探すことが日課になっている自分に気付く。

 その頃の私は、小さなケーキ屋さんでケーキを作るパートタイマーとして働いていた。
 明日はクリスマスイブというその晩、パートを終えた私は、二階建ての貸家に帰った。
 夜中の十一時を過ぎて、 イブまであとすこしという微妙な時間帯だった。外から自分の部屋を見上げると、煌々と明かりが灯っている。
 Kが来ている!
 私は、心を弾ませて、二階への階段を上った。  私の足音が聴こえていたのだろう、扉を開けるとKがいて、さっそくコートの上から私をふわりと抱きしめてくれた。
「Y、おかえり」と言う彼の着ているセーターからは、何となく旬の野菜や味噌汁といった温かい家庭の匂いがした。
「きょうは、奥さんと一緒に食事してきたの?」
 私が聞くと、Kは微笑みながら答えた。
「君のためにぼくが自分で作ったんだよ。あと、十分弱でクリスマスイブだ」
「私、丸いケーキが食べたいわ」
 駄々をこねる少女のように私はKの座っている一人用のソファーに近寄って、彼の手を包み込んだ。

 Kは石像の彫刻家で、大学の非常勤講師だった。 五本の繊細な指に触れる度に、私は、むかしその大学の学生だった頃に見た、正面玄関に置かれている女性の裸体の石像を思い出す。その石像は、一途に恋する想いの強さを、全身で語っていた。  私が石像を熱心に眺めていたとき、当時は先生と呼んでいたKが偶然通りかかり、
「二科展で入選した初めての作品なんだよ」
と、少年のように笑いかけて、受賞当時の喜びを語ってくれた。
 それがきっかけだった。
 Kからすすめられるままに私は、友達といっしょに大学の別館にあるアトリエまで遊びに行くようになった。
 アトリエに置かれているいろいろな道具などがもの珍しくて、椅子の代わりになりそうな石の上に乗っては、石をぐらぐらさせて遊んでいた。
 Kの着ている白いYシャツはいつも皺だらけで、彼女や奥さんのいるような気配は、全く感じられなかった。あんな素敵な石像を彫る先生は、どんな人なのかしら、と、私は、Kのことが気にかかるようになっていた。

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