Last modified: FEB.16.2012▼MENU


MY詩集 2011年1月号_小説2

vol.378_2011年1月号_小説2

vol.378_2011年1月号_小説2
テーマ作品:川

Editor: Yuki Kumagai
Copyright (C) MY-SHISHU




早春某日

添田明里

 今日は、よく晴れて暖かく、気持ちの良い日でした。近くの川まで散歩に行きました。
 土手へと続く道で私を追い抜いたジョギングの男は、推定ジジイ。後ろ姿しか見えませんでしたが、頭髪の具合や全体の肉付きから、きっとジジイであると思われました。
 とはいえ、なかなか引き締まった体で、レーヨンナイロン的なうすいペラペラのジャージからは、ジョギングの足並みに合わせて躍動する筋肉が、ブリーフのゴムのラインと共にはっきりと見てとれるのでした。ジジイは小柄で、おそらく一五五センチ前後。ジャージは真っ赤。私はその姿が見えなくなるまで、目を逸らすことができませんでした。
 しばらく歩くと土手に着きました。平日でしたが、そこここに人はいて、絵を描いたり、座って日なたぼっこしたり、私のように散歩をしたりと、それぞれに川辺の午後を満喫しているのでした。
 私は、風邪と花粉よけのマスクをずらして、フガフガと川風を楽しみながら、ゆっくりと歩きました。日射しはまろやかで、ひらけた視界と心地よい静けさ、川はただ優しく流れ、誰にともなく感謝したくなるような幸せな時間がそこにありました。そしてまた、衝撃の光景も、そこにあったのです。
 左右共に1.2ないし1.5の視力を持つ私のミラクル・アイは、すぐにそれが何であるかを認識しました。ジジイでした。赤いのは、しかし半分だけなのです。さらに、"タテ"ではなく、"ヨコ"なのです。ジジイは、幸せな午後の川辺の土手の緑の上で、上半身裸になって腕立て伏せをしているのでした。
 私は、ずらしていたマスクを急いで戻し、笑い転げながら歩きました。私の視界の中にジジイがいたのは短かい時間ではありませんでしたが、その間じゅう、ジジイは腕立て伏せを続けていたので、私は感心してしまいました。そして、笑いが止まりませんでした。
 ようやくジジイが消えてからも、思い出し笑いにおそわれる私の足元に、ピンクの紐をつけたかわゆいポメラニアンが走り寄って来ました。頭をなでながら見回すと、少し遠くで、ボールを片手に犬の名前を呼ぶ、飼い主とおぼしき女の人がいました。
 私は、ポメラニアンを軽く押してやって、ネコもいいけど、犬もかわゆいなあと思いながら、家に帰りました。



Mobile MENU
本誌について/購読案内
入会案内
最近の誌面
表紙画集
入会/再入会/購読の申し込み
PCwebsite MENU

▲PAGE TOP


Copyright(c)MY-SHISHU 1996-2014